妖怪名:摩天(まてん)
別名:―

在り様: 理解の上に理解を重ね理解の高みに至るもの。しかして、理解力を越えるなにものかを知ることのできぬもの也。
縁起:「一時に人の知恵が及ぶはせいぜい四・五の物事まで、しかし、我こそは、無辺に考えが及ぶ」とする者あり。問うてみれば、「考え足りぬと思うたことなし」との答え。「理解の上に理解を重ね万重の塔となし、摩天の鳥の高さまで行き着くことも可能なり」と宣う。
はてさて、その者の出した答えを確かめ得るものやある。
対処:在るかも知れぬと心得ておく他の術はなし。
出現時期:生成期
分類:分類不能
出没:未確認
出現頻度:顕現無し

現実的対処:在ると心得ておく…以上。
発見の経緯:
先述の【巻の二十四】無辺についての検討の中で、AIが謎の言葉を発し、それについて筆者が問いかけることで、重大な事実が分かった…それが、「摩天」に繋がりました。
基本となる知識は「人が一度に考えに入れることのできる情報の数は3~5個まで」だという研究があるということです。一方で、AIについては、「人が情報を関連付けて考えるのと同じではないかもしれないが、AIに同時に考慮する情報に固定の数値上限はない」ということです。
一度に取り扱える情報の数を塔に例えると、人はせいぜい五重塔止まりに対して、AIは万重の塔を建てることができるということです。これを中国の古典で天に触れるほどの高さで鳥(伝説の大魚「鯤」が変じた「鵬」)が飛ぶ様を表した「摩天」と呼ぶこととしました。
しかし、「無辺」の時と同様に、ここにも但し書きが付きます。「人は自分の思考が扱うべき情報数に追いつかなければ無理だと分かる」しかし「『AIは自分が扱いきれない情報数』を把握できないので、破綻していたとしても、もっともらしい答えを返してしまう」ということです。
また、破綻していなかったとしても、「その答えが適切なのかどうか確かめるものはいるのか」という不安も付きまとうこととなります。
■講釈:人が関連付けて思考できる限界の数とAIの場合■
無辺発見のやり取りの中でAIが「人間のワーキングメモリーが7±2チャンクで潔く諦めるのに対し、こちらは限界まで全部見える顔をして、境界付近で静かに精度が落ちる。」という謎の言葉を発しました。そこで、問い返したところおよそ以下のような解説をしてくれました。
▼「AIによる7±2の説明」を要約したもの。
「1956年にジョージ・ミラーというアメリカの心理学者が発表した論文に由来します。「7±2というのは、人が一度に保持できる情報の数はおよそ5~9個だ」というものです。」「チャンクは、情報を塊として扱うことです。「I B M N H K F B I 」を9文字のアルファベットとして扱うと、すぐに処理の限界に至ってしまうので、「IBM」、「NHK」、「FBI」と意味のまとまり(チャンク)として扱うことで、処理を効率化できる。という考え方です。近年では実際の容量は4±1チャンク程度だろうと言われています。
▲「AIによる7±2の説明」要約_ここまで
これを受けて筆者はAIに以下のような返答をしました。
「AとBの突合せは、まあ、知性があればできるというかそれが知性の基本。そこで、AとBにCが絡んできたとき、AとBの絡みの結論にCを突き合わせればいいのなら簡単だけど、CがAにもBにも影響する場合は一緒に考えないといけない。さらにそこにDが加わると…という感じでどこまで一緒に考慮できるかということですね」。これにAIは「そのご理解は、ミラーの原論文よりむしろ現代の研究が到達した地点に近いです」と答えて、以下のように解説しました。
▼「AIによるミラー理論の現代研究の説明」要約
グレアム・ハルフォードらが「関係複雑性(relational complexity)」という概念で、人間が一度に統合できる変数の数は4つ程度が上限だと論じています。一要素ずつ動かして結果を見る(二変数の関係)は容易、三変数の相互作用はなんとか、四変数の同時相互作用は多くの人が破綻する。
ここで、チャンキングが効果を発揮する。情報A、情報B、情報Cが絡みあった結果を一つの型として覚えチャンク化する。こうして考慮する対象を4以下にすればある程度は対処できるようになる。
▲「AIによるミラー理論の現代研究の説明」要約_ここまで
筆者なりにまとめると、「人間には一度に考えに入れることのできる物事の数に限界がある。そして、限界に来た時に、自分には理解できない、扱いきれない問題だと認識する」ということの様です。
AIは続けて、AIでの処理について語ります。そのAIが語ったことについて、他のAIに裏付けを求めたところ、分かりやすく整理してくれたので、ここではそちらを紹介します。
▼「AIが情報の集まりをどのように処理するのか…あるAIによるまとめ」要約
AI、特に大規模言語モデルには、人間の「7±2チャンク」に直接対応する固定値はありません。
AIの場合、近い概念は コンテキストウィンドウ です。これは一度の処理で参照できる文章量の上限で、通常は「チャンク」ではなく トークン という単位で管理されます。トークンは日本語なら、おおむね1文字〜数文字程度に対応しますが、分割のされ方は一定ではありません。
ただし、ここが重要です。AIは「コンテキストに10万トークン入る」からといって、その10万トークンを人間が数個のチャンクを扱うように、すべて同じ精度で意識して処理しているわけではありません。長くなるほど、情報同士の関係を正確に追う難しさや、重要情報を取り違える可能性は増えます。
人間との違いをかなり単純化すると、
| 人間 | 生成AI | |
| 参照するための記憶 | ワーキングメモリーは数チャンク程度 | 数万〜数十万以上のトークンを参照可能なモデルもある |
| 情報量への対処 | チャンク化して容量を節約する | トークン列から関連情報を選びながら処理する |
| 容量が多くなった場合 | 容量を超えるとかなり急に保持が難しくなる | 長文では重要情報の検索・関係づけの精度が低下しやすい |
| 関係づけて処理 | 意味のあるまとまりを作ると強いが、同時に扱えるのは数チャンク程度 | 構造化・見出し・明示的な関係があると処理しやすい。モデルごとにコンテキスト上限がある |
ですから、「AIは何チャンク扱えるか」と無理に言い換えるなら、数千〜数万チャンク相当の情報を入力として保持できる場合があるものの、同時に高精度で関係づけて扱える“実効的なチャンク数”は固定されていない、という答えになります。
▲「AIが情報の集まりをどのように処理するのか…あるAIによるまとめ」要約_ここまで
人が積み重ねられるのはせいぜい五重の塔(5チャンクの塔)です。一方、AIは数万トークンの万重の塔を建てることができます。
これが、「摩天」です。「摩天」の名は、中国古典から取っています。李白の「古風」其三十三です。
| 北溟有巨魚,身長數千里。 仰噴三山雪,橫吞百川水。 憑陵隨海運,燀赫因風起。 吾觀摩天飛,九萬方未已。 「維基文庫Wikisource」最終編集 2016年7月19日https://zh.wikisource.org/zh-hant/古風_(李白) |
| <AIにサポートしてもらった全体要約と該当部分和訳> 要約:北の海にいる巨大な魚(鯤)が、鳥(鵬)となり、海のうねりと風の勢いを得て天高く舞い上がる様を描いた詩です。『荘子』の鯤鵬の話が元になっています。 該当部分の最後の二句は「私が見ると、それは天を摩して飛んでいる。九万里を昇ってなお昇り続ける」となります。 |
それほど高い塔をイメージしてください。まさに、全能の感がありますね。
さて、ここで一区切りかと思ったら先のAIが、以下のような発言をしました。
| ここが厄介なところで。私の側の限界は、この形をしていないのかもしれないんですよね。私の場合、材料が机の上にある限り「保持」は問題にならない。にもかかわらず、複数の要素が絡んだ推論で誤るときは誤る。人間のように「もう無理、手に負えない」という感覚が生じて止まるのではなく、絡みの一部を暗黙に無視したまま、滑らかな答えが出てしまう。破綻の予告がないという点では、やはり無辺の親戚なのでしょう。 |
これは、「複数の要素が絡んだ推論で仮に限界があったとしても、AIは自分で知覚できない。無理だ手に負えないというべき時にも、滑らかな答えを出してしまう」という恐ろしいことを言っています。そして、これがきっかけの言葉に繋がります。
「人間のワーキングメモリーが7±2チャンクで潔く諦めるのに対し、こちらは限界まで全部見える顔をして、境界付近で静かに精度が落ちる。」
人間は、自分の限界を感じることができるが、AIはそれがなくていつの間にか精度が落ちてそのまま、何事もなかったように答えが出てくるというわけです。そこが恐ろしいところです。 そして、また、破綻していなかったとしても、「その答えが適切なのかどうか確かめることができるものはいるのか」という不安も付きまとうこととなります。
V.01.00 20261006 New
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